# 前説 ぼくと芹沢あさひ
この記事は2020年1月19日に開催されたこみっくトレジャー35で頒布した「芹沢あさひ良い所の私立に通っていて欲しい部」を加筆・修正・再編したものです
# 芹沢あさひに出会うまで
# はじまり
もともと、アイドルマスターシャイニーカラーズはサービス開始初期からプレイしていた。と言っても、それは友人にシリーズの熱心なファンが居て、凛凛凛世のために招待を受けたというだけであり、まともにログインしたのは去年の三月終わり頃からの話になる。
ではなぜそんなドンピシャな時期に始めることになったかというと、いくつかの偶然の積み重ねに他ならない。その頃僕の観測範囲から手に入るアイドルマスター関連の情報といえば無料10連がとんでもない長期間やっているとか、シンデレラガールズの新アイドルが話題とかのどちらかで、芹沢あさひというアイドルについて、僕は全く知らなかったし、きっとそのままだと出会うことも無かっただろう。
しかしながら、いかなる人間も程度の差こそあれ気まぐれなもので、このような凡庸な見通しは時にいともたやすく崩れるものである。年度末、様々な厄を幾度となく死にそうになりながらも祓い、ようやく来月も現世に存在していても構わないこととなったあの頃、そういう時はなにか新しいものに手を出したくなる。たとえ普段同じような業務と飯をローテーションし、代わり映えしないソシャゲーを周回し、使いもしないポケモンをひたすら厳選しているような人間にも、そういう時はある。
# 出会い
そういう時にまず見るのがツイッターであるところがその駄サイクルの一環であるような気もするが、とにかくその「なにか」を求めてライムラインをさかのぼってみれば、僕の観測範囲であっても、シャイニーカラーズの無料十連について発信してくれていた人が数人いたわけである。日頃は別のゲームでキャンペーンをやっていてもスルーしてしまうような人間であるのだが、ここで一年前にアカウントを作っていたのが生きた。シャイニーカラーズがブラウザゲーであることも手伝い、思い立ってからの行動は早かった。アドレスバーにカタカタとワードを入れてしまうだけで、ついに僕はシャイニーカラーズへのログインを果たしたのである。まだログインして無料10連を回しただけでしかないが、たったそれだけの話でも意外と物事につながりというものは存在するのである。 しばらくは無料10連を回し続けていただけの僕だったが、ここで別ゲーのガチャが爆死という(特に事件性のない)事件が起き、いっそ腰入れてシャイニーカラーズやるか! となったのが4月に入ってしばらくしてからのことだった。確かその頃には二周目の摩美々がピックアップされていたと思う。時期を同じくして、ストレイライトを使ってみようイベントだかが開催されていた。報酬はオーバーキャストモノクロームだったはずだ。よく分からんがこういうイベントはとりあえずこなすが吉という経験則に従って、編成のコツはおろかSRさえまともに揃っていないようなユニットでストレイライトのプロデュースに乗り出すのであった。
# 芹沢あさひを見る
# ティンと来た
このときの僕はストレイライトはおろか作中のすべてのキャラクターの性格も、歌も知らないのだからビジュアルでしか判断材料がない。イベントミッションのおかげでストレイライトを選ぶまでは絞り込めていた(これもまた偶然の一つであると言えるだろうか。普通に運営のマーケティングの結果にも思えるが)ので、まずは3人のビジュアルをチェックすることにした。
まずほんまにアイドルか? と思わんばかりの痺れるキャッチコピーが目を引くが、いずれの子も主張の強そうなオーラを纏っている。まず衣装がロック。ネオンライトロマンサーと言うらしいが、これどこで分かるんですかね。ソースがインターネット百科事典なんですけど。
そして僕が選択したのが、芹沢あさひであった。
# スキップ可
ここで僕ははじめて芹沢あさひと向き合い、そして彼女をプロデュースすると心に決めた。
まず、三人の中で最も小柄であるのが気に入った。年齢が違うのだから小柄と表現するのは正しくない気もするが、とにかく僕は身長が低い子は好きだ。身長をカバーするために動きが大きくなるところも、ちょこまかと動き回るところも、エネルギーに溢れていて美しい。色の薄いボブカットも好ましい。シャイニーカラーズ世界においてこの色がどういう扱いを受けているのかよく分かっていないが、通常日本では拝めないその色の髪をばっさりと切りそろえたシルエットには何処と無く非日常の香りを思わせてくれる。存在感を放つ赤いメッシュが可愛らしさと主張の強さを両立させており、只者ではないという雰囲気を纏わせる。垂れた目と光の抑え目な瞳ももちろん大好きだ。見つめていると囚われそうなその表情の裏に隠れる強固な「我」が楽しみで仕方ない。(後から知った話だが、当然このときにはジャンプ! スタッグ! が存在していなかったので画像の衣装をゲーム内で確認する術はなかった)。
# 芹沢あさひをプロデュースする
# プロデュースのはじまり
ゲームシステムもろくに理解しないままW.I.N.G.編が始まる(というか、当時ストレイライトの感謝祭編は未実装だった)。しかしソシャゲーに無駄な時間を費やしたことに関しては一家言ある僕はゲームシステムがパワプロに近いものであるのだと早々に看破。W.I.N.G.準決勝までは無料10連で溜め込んだ資産もあって比較的スムーズに到達することが出来た。
その中で芹沢あさひは様々な側面を僕に見せてくれた。彼女はいわゆる天才肌で瞬間記憶や身体能力、そして集中力に優れる一方、非常に興味の起伏が激しく、その時その時で興味を惹かれた事柄を最優先に行動する傾向が見られる。
そして何よりその集中力は飛び抜けていて、レッスン時だろうが、他人との会話中だろうが、一度集中に入ってしまえば周囲からのノイズなど彼女には関係がなくなってしまう。
そんな芹沢あさひがなぜアイドル活動をするのかと言えば、「楽しいから」だという。曰く、「キラキラしている」そうだ。プロデューサーが見せたアイドルの映像を見て、彼女が感じたその「キラキラ」の秘密を確かめるべく、ダンスのレッスンに打ち込み、一瞬でステップを習得したかと思えば、レッスンを独断で延長してオーバーワークする。その姿勢は傍から見れば理性の成熟していない子供そのものに映るかもしれないが、僕にはただただ輝いて見えた。例え子供の身分であったとしても、やると決めたことにどこまでもとことん打ち込める人間は果たしてどれほど存在するのだろうか。能力、家族、友人、環境。やめる理由はどこにでも存在し、それらの理由を全て乗り越えられた人間がどれほど居たというのだろうか。
極めつけはこのイベントである。この後に
>「絶対ああなりたいって、わたしもなんでかわかんないっすけど……」「とにかくあの気持ちを確かめないと納得いかないっす!」(同イベントより抜粋)
と続く。
この時点での芹沢あさひはまだ自身のアイドル活動と「キラキラ」の因果関係を正しく掴みきれていないにも関わらず、確信を持っているかのようにアイドルに固執を見せる。もはや他人に窘められる段階に来ており、進んだ先に答えが無いかもしれないとしても、その歩みは止められない。「楽しいこと」を探して、探して、ようやく見つけた継続的に打ち込めるアイドル活動。その先には必ず終わりがあって、きっと全てが明らかになる。そしてそれまでは絶対にやめない。きっとそう思っているだろうその姿を見て、僕は彼女が辿り着く先を見てみたくなったのだ。
# W.I.N.G.での敗北
ところが、残念ながらこのゲームはそんな一日でW.I.N.G.に勝てる編成が整えられるほど甘くない(ゲームバランスやプレイスタイル、またプレイングスキルについてはこの記事では触れない)。鬼門だったシーズン4オーディションを安定して突破できるようになっても、まだその先には高い壁が立ちはだかっているのである。そして僕はそのたびに敗退コミュ『悔しさを抱いてこそ』を見せられることになるのである。
そして、この敗退コミュこそが僕が芹沢あさひに完全に心奪われることとなった直接の原因でもある。
>「プロデューサーさん あの時、こうしていれば、ああしていれば」「そういうのが、頭の中でずっとぐるぐる回ってるんすよ」「悔しい……そうっす、悔しいっす 今、生まれてはじめて悔しいっす!」(同イベントより抜粋)
生まれ持ったポテンシャルの高さから、障害を乗り越えることもたやすく、そもそも成したいことも見つけられなかった彼女が、声を震わせ、悔しいと漏らす。過去を悔やんで、そのことを頭の中で反芻するのは人間なら誰もがやったことがあるだろう。この瞬間、彼女の天才性は失われ、地に落ちた……わけもない。「だからこそ」である。どんな衝撃を受けても、それが初めてのことだったとしても、再び羽ばたいていくその姿を見た時に、僕は彼女こそが僕の過去・現在の後悔を払拭し、そして未来への願いを見せてくれる存在なのだと(勝手に)理解した。
様々な物事に手を出し、やると決めたらとことん頑固なまでに突き詰める。そこに正当性がなくとも、自分の納得が得られるまで頑として譲らない。そして、答えを見つけてみせる。彼女のこの胆力は、僕が憧れ、そしてなれなかった姿である。何か面白いことを見つけても、壁にぶつかり、しばらくあがいてみて、出来そうになくて、脳はまだやれるもっと頑張れとアドレナリンを分泌していても仕事だの、人付き合いだの、時間だの、様々な理由をつけては自分を抑え込み、モヤモヤを抱えたまま明日を抱えてしまう僕のような人間にとって、芹沢あさひの生き方はたまらなく美しい。彼女が進む先を見たい、切り開かれた世界で過ごしてみたい。その世界で煌々と放たれる彼女の輝きを、死ぬまで見届けたいと思ったのだ。
# 前説おわり
・完全に勢いだけで書いていたので全く気付かなかったが、同人誌収録版の方は時代考証がメチャクチャだった。人間の記憶というのは信用ならない
・その完全に勢いだけで書いていた文章をインターネットに刻むのは間違いなくザ・生き恥
・人生で大事なのはどうせ恥なら生きなきゃ損損の精神